タグで日記を手打ちするのが面倒になった、
ダメな感じの人が書く、
タメにならない日記。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ジンきた美味しいよジンきたにやにや
あいも変わらずクズ生活してますがまだまだ楽しいです(…
でも買い物すると働かなきゃなーと思います
家で妄想してるだけなら別にいいんだが…
どうしてこうも私の趣味は金がかかる^q^
あいも変わらずクズ生活してますがまだまだ楽しいです(…
でも買い物すると働かなきゃなーと思います
家で妄想してるだけなら別にいいんだが…
どうしてこうも私の趣味は金がかかる^q^
-------
それはとても些細なことばかりだった。
たとえば楽屋での風景。
その日の彼はソファに横になって、仮眠をとっているようだった。
頭からタオルを被っていてその顔をうかがうことはできないが、
睡眠時間が十分にとれないことも多いこの仕事では、とくに珍しいことでもない。
彼が呼ばれるまで寝かせておいてあげようと、皆が(比較的)静かに過ごしていた。
たとえば移動中の車の中。
まだ疲れがとれないのか、メンバーの会話に参加することもなく、
彼はうつらうつらと車に揺られていた。
時折イラついたように眉間を押さえている。
…彼のスケジュールを全て把握しているわけではないが、
そんなに仕事が詰まっていたのだろうか。
収録中はさすがというべきか、「そういうもの」は見られなかった。
けれど普通じゃ気にならない程度に、所々身体の動きが緩慢なようで、
ちょっとした移動や待ち時間の間、長い手足がひどく重そうに見えた。
「「「ありがとうございました、お疲れさまです。」」」
その日の夕方頃、時間が押すこともなく無事にメンバー全員での収録が終わった。
彼は楽屋に戻るとすぐに煙草を手に取って、再び廊下に出ていった。
喫煙所へ行くのだろう、ヘビースモーカーの彼にはよくあることだ。
普段はただ見送るばかりだけど、どうしても俺は気になってその背を追いかけた。
気のせいかもしれない、全部が気のせいであればそれでいい、ならばただの勘違いだ。
追いかけた猫背が、いつもより丸いような気がする、それさえも。
「北くん、」
「…どうしたの?ジンくん。」
呼びかけに気づくと、彼は振り向いてその足を止めてくれた。
喫煙所の手前の廊下で追いついた俺は、さっと一瞬だけ周りを確認してから右手を伸ばした。
彼は少し不思議そうな顔で、ただなりゆきを見ている。
「…ッなに、」
触れたのは、彼の耳の少し下。
途端彼は困ったように――というかめんどくさそうに、眉を寄せて、俺の手を払う。
皮膚が薄く柔らかいそこは、少しばかり熱かった。
まるで子供の体温だ。
「ねぇ、体調悪いんじゃない?」
「…そんな大事じゃないって。」
「いつから。」
「…昨日かな、多分。」
「マネージャーさんは?」
「知ってる。薬も飲んでるよ。」
責めるような口調になってしまうのは無意識だった。
同時にひどく胸の中がむかむかしていたが、
この憤りをどこにぶつければいいのか分からず、俺はそれを飲み込むので精一杯だった。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、めんどくさそうに彼は続けた。
「平気だよ、俺今日この後撮りないし、取材だけだし。
レコーディング前に喉痛めるわけにいかないしね。」
そう、彼の言う通り、俺たちは新曲のレコーディングを来週に控えていた。
喉を始めとした体調の管理も、当然仕事のうちのこと。
そもそも彼の体調不良のことは、既にマネージャーさんも把握しているそうだし、
彼女の方が色々と段取りは良いはずで、なんなら彼はもう薬まで飲んでいる。
…俺は何に苛立っているんだろう。すごくいらいらする。
なにも間違っていることも、理不尽なこともないのに。
俺がなにも言えないでいると、彼はふいと足を喫煙所へ向けた。
「心配かけてごめんね。…今日は、すぐ家帰るから。」
じゃあね、お疲れさま。と彼が立ち去っても、まだ俺は何も言えなかった。
心底苛立っている自分に、そしてようやっと見つけたその原因のくだらなさに、
はたはた呆れてしまったからだ。
自己嫌悪にはまりながら戻っている途中で、宮永さん、と高い声に呼ばれた。
――あぁもう、なんだっていうんだ。
その声に憂鬱な要素がプラスされつつも、俺はおくびにも出さずに振り返る。
まさに今(勝手に)苛立っていた――北くんのマネージャーさんの、津久井さん。
ジーンズにタンクトップ、彼女のとても快活そうなスタイルはいつも通り。
「…お疲れさまです。」
「お疲れさま。ごめんなさい、今ちょっと時間いいですか?」
今日の仕事は終了していたので頷くと、5分で終わらせると彼女は言った。
(こちらはそんなに急いでいなかったが)彼女のこういう物言いはとてもやりやすい。
ひとの目が気になったらしく、彼女と場所を移動しながらも、
俺はどこか鬱々とした気分でその後ろ姿を眺めていた。
自分より頭一つ小さな身長、重たそうな鞄を肩に食い込ませながら、
肩上で短く切りそろえてある髪が歩く度に揺れる。
とても優秀な人だと思う。マネージャーとしてだけではなく、多分、女性としても。
(……ばかみたい。)
自分の思考回路にふつふつと嫌気が差してきたころ、ふっと周りの騒音が遠くなった。
気付けば俺は、あまり来たことのない通路の角に立っていた。
どうやら大分うわの空で歩いていたようだ。
…彼女の用件とはなんだろう。見当もつかない。
「できたら今日、あいつの部屋に寄ってほしくって。」
「え?」
ほんとに申し訳ない!と彼女はまっすぐ頭を下げた。
とっさに俺は、どうリアクションすればいいのか分からなかった。
二人きりなので口調はフランクだけど(そもそも彼女の方が年上なんだし)、
どうやら真面目な話のようだ――かといって仕事の話とも少し違うが。
恐るおそる確認してみる。
「ええっと、あいつって…?」
「北だよ。あいつ今、どっかから風邪もらっちゃったみたいでさ。」
「ああ、そうみたいですね…。」
「だからその、ちょっと部屋に顔出してもらえたらなーって…。」
やはりあれは風邪の影響だったらしい、俺は昼間の彼の様子を思い出す。
すると言っているうちに余計申し訳なくなったのか、再度彼女は頭を下げた。
「勝手なこと言って、ごめんなさい。」
彼女は、俺と北くんの関係を知る数少ない人だったから、
他のメンバーではなく俺に声を掛けたのはわかる。
わかるけれど、…俺は易々と返事をできなかった。
「…でもそういうのって、津久井さんの方がいいんじゃないかな。」
俺なんかより、ずっとさ。
***
ふうっと意識が浮かんだ。
暗い、オレンジ色の光だけがぼんやりと部屋を照らしている。
(あつい、)
寝返りをうとうとした途端、頭の奥がごうんごうんと呻きだした。痛い。
(…かぜ、だな。かんぜんに。)
ちくしょうどこから拾ってきた、とぼんやり回らない頭で考える。
けれど熱に浮かされたそれで答えが出るはずもなく、考えることを早々に放棄した。
(……そういえ、ば、)
俺は出来るだけ遠くに目をこらして(なるだけ頭を動かしたくない)、そっと耳をすませた。
目が覚めたとき、人の気配がしたような気がしたからだ。
けれどそこにあるのは、見慣れた自分の部屋と、無機質な空調の音だけ。
……気のせいか、とすぐに意識を投げ出した。
頭で物を考えたくなかったのだ。
(…今。なんじ、だろ。)
ああだめだ、考えたく、ないのに。ばか。
左手をほんの少し動かしただけで、こつん、と探りあててしまった。携帯電話。
機能に機能を重ねた現代の必需品。それが嫌いで仕方無いのに。
(やだ。…気に、したくない。)
気にしない気にしない、かんがえない、そうだ忘れよう、寝てしまおう。
そうやって必死に心の中で唱えていたから、部屋のドアの向こうから、
…ぱたん、ぱたん、
と足音が聞こえたのには本当に吃驚した。
やがて足音は近づいて、誰かが静かにドアを開いた。
「…あ、目さめちゃった?遅くなってごめんね、」
「っげほ、ごほッ…、はぁ、」
「無理して声出さないで。大丈夫?」
彼の名前を呼ぼうとしたのに、喉からは耳障りな咳しか出てこなかった。
別に無理なんかしてなかったんだけどな。急に気管が苦しくなって、思わず身体を丸める。
カッコ悪い、まるで芝居みたいにわざとらしいのに、
布団越しに感じた手のひらに、何かがほろりと外れてしまいそうだ。
--------------受信トレイ(1/1500)--------------------
20xx/08/03 22:12
from.ジンくん
sub:今日の夜、部屋行きます。
多分23:30ごろになると思う。
迷惑だったらごめん。
体調悪いんだから、先に寝ててください。
-END-
-----------------------------------------------------------
(ほんと、に)
(来てくれたんだ。)
「北くん、エアコン下げ過ぎだよ。温度上げといたからね。
あとそこにあった、今日着てた服かけといたよ。シャツは洗濯だけど。」
ふぅふぅと呼吸を整えながら、彼の小言(といったら怒られそうだ)を聞いていた。
聞き慣れた声は耳からするりとしみ込んでいく。
「水、ここに置いとくね。暑いんじゃない?
保冷剤持ってきたから、首にあてるといいよ。」
言われるがまま、ほんの少し頭を上げると、首もとにタオルを当てられた。
ひんやりとした程よい冷たさが気持ちいい。
だるさとか熱っぽさとか疲れとか、そういう嫌なものがゆっくりと吐き出されていく。
(あー、なんか…)
ゆるゆると腕を持ち上げて、顔を覆い隠す。
触れた頬が熱いような気もするけど、手のひらの方が熱いからよくわからない。
彼が不思議そうに俺を見ている。
「どうしたの、気分よくない?」
「ううん。」
「…ごめん、やっぱお節介だっ」
「ちがいます。そんなことない…。」
なんでそういうこと言うかな嬉しいに決まってんじゃん、なんて言う気力が今は無い。
無いけれど、でもどうやら彼は俺の言葉を待っているらしかった。
熱で浮かれた頭の中、思考と言葉はバラバラのジグソーパズルみたいにごちゃ混ぜだ。
誰もピースをはめてくれやしないし、組み立てるのがめんどくさい。
もういいや。
「…世話かけて、ごめん。」
「気にしないでいいよ。」
「久しぶりなのに。」
「…そう、だね。」
「…………。あー、もう…やだ…。」
「北くん?」
じわり、じわりと胸の奥がむずがゆい。
頭痛のように不快なものではないが、それでも無視できないくらいの気持ち。
(うれしい、から、)
今すげー顔ゆるんでてだらしないから見ないでください、
って言う前に顔を覗き込まれてしまったのは、不覚だったかもしれない。
けど、指の間から見た彼の顔もふにゃりと笑っていたものだから、どうでもよくなった。
…今みたいなのは結構めずらしい。
「はぁー…。さっさとなおそ…。」
「そうしてください。」
布団を被り直しながら壁側に寝返りをうった。
ぐるりと頭を動かしたものの、頭の奥は随分と静かにしている。
この分だときっと、明日の仕事も問題ないだろう。
(くそ、キスしたかった…。)
おやすみ、と彼の声が聞こえた。
今夜はよく眠れそうだ。
***
『津久井さんの方がいいんじゃないかな。』
『そんなことないよ。』
彼女の否定は、早かった。
『マネージャーと恋人は違うでしょ?』
何を今更、とでも言う風に彼女は言った。
それでも俺は納得いかない顔をしていたんだろう、彼女はさらに続ける。
『少なくとも北は一緒にしてないし…。
っていうか、早いとこ風邪が治ればなんでもいいんだけどね。』
最後に彼女は、困ったように首を傾げながら話を終えた。
『あいつ、結構甘えたじゃない?普段カッコ付けだけどさ。』
彼女が俺に割いた時間は、本当に5分間だけだった。
それはとても些細なことばかりだった。
たとえば、なんでもない言葉。
『…今日は、すぐ家帰るから。』
(別に、知らせる必要なんてないのに。)
たとえば、付けっ放しだったサイドライト。
(いつも彼は、部屋を真っ暗にして眠るのに。)
たとえば、眠っている顔の目と鼻の先に転がっていた携帯電話。
(見るのも嫌だと、あれだけ毛嫌いしているものなのに。)
もしかしたら勘違いかもしれない、思い込みでしかないかもしれない。
でもそれは少しずつ確実に、胸の中をあたたかくしてくれて、
無意識に口角が上がってしまう。
明日の朝食の準備を終えて、さて自分も寝るかと思ったときに、
ふと携帯電話がちかちか光っているのに気がついた。
(なんだろ、津久井さんかな。)
--------------受信トレイ(1/2987)--------------------
20xx/08/03 22:18
from.北 理人
sub:Re:今日の夜、部屋行きます。
今部屋ついたよ。
待ってる。
-END-
--------------------------------------------------------------
「うそっ…?!」
思わず携帯を落としそうになるくらい動揺してしまう。
まるで熱をうつされたように、顔が熱くてあつくて仕方が無かった。
(だってこんな、そもそも返信なんて滅多にないのに…っ、)
薄暗い台所で、しばらく立ち上がれなかったことを、
彼は知る由もないんだろう。
おしまい!
----
・朝食の用意=お手製お粥 ←妄想本命だったところ
・ほんとはジン君が「ソファ借りるね」「えっなんで」「寝るから」
「ばかじゃないのそれこそ風邪ひくわ」っていうやり取りの元
きたと一緒のベッドで寝るっていうくだりがあった
・どうでもいいけど多分きたの風邪の原因は冷房の当たり過ぎ
ちょっと北マネの設定ができつつあるのでよかったー。
ちなみに名前は津久井智子(漢字は今決めた
それはとても些細なことばかりだった。
たとえば楽屋での風景。
その日の彼はソファに横になって、仮眠をとっているようだった。
頭からタオルを被っていてその顔をうかがうことはできないが、
睡眠時間が十分にとれないことも多いこの仕事では、とくに珍しいことでもない。
彼が呼ばれるまで寝かせておいてあげようと、皆が(比較的)静かに過ごしていた。
たとえば移動中の車の中。
まだ疲れがとれないのか、メンバーの会話に参加することもなく、
彼はうつらうつらと車に揺られていた。
時折イラついたように眉間を押さえている。
…彼のスケジュールを全て把握しているわけではないが、
そんなに仕事が詰まっていたのだろうか。
収録中はさすがというべきか、「そういうもの」は見られなかった。
けれど普通じゃ気にならない程度に、所々身体の動きが緩慢なようで、
ちょっとした移動や待ち時間の間、長い手足がひどく重そうに見えた。
「「「ありがとうございました、お疲れさまです。」」」
その日の夕方頃、時間が押すこともなく無事にメンバー全員での収録が終わった。
彼は楽屋に戻るとすぐに煙草を手に取って、再び廊下に出ていった。
喫煙所へ行くのだろう、ヘビースモーカーの彼にはよくあることだ。
普段はただ見送るばかりだけど、どうしても俺は気になってその背を追いかけた。
気のせいかもしれない、全部が気のせいであればそれでいい、ならばただの勘違いだ。
追いかけた猫背が、いつもより丸いような気がする、それさえも。
「北くん、」
「…どうしたの?ジンくん。」
呼びかけに気づくと、彼は振り向いてその足を止めてくれた。
喫煙所の手前の廊下で追いついた俺は、さっと一瞬だけ周りを確認してから右手を伸ばした。
彼は少し不思議そうな顔で、ただなりゆきを見ている。
「…ッなに、」
触れたのは、彼の耳の少し下。
途端彼は困ったように――というかめんどくさそうに、眉を寄せて、俺の手を払う。
皮膚が薄く柔らかいそこは、少しばかり熱かった。
まるで子供の体温だ。
「ねぇ、体調悪いんじゃない?」
「…そんな大事じゃないって。」
「いつから。」
「…昨日かな、多分。」
「マネージャーさんは?」
「知ってる。薬も飲んでるよ。」
責めるような口調になってしまうのは無意識だった。
同時にひどく胸の中がむかむかしていたが、
この憤りをどこにぶつければいいのか分からず、俺はそれを飲み込むので精一杯だった。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、めんどくさそうに彼は続けた。
「平気だよ、俺今日この後撮りないし、取材だけだし。
レコーディング前に喉痛めるわけにいかないしね。」
そう、彼の言う通り、俺たちは新曲のレコーディングを来週に控えていた。
喉を始めとした体調の管理も、当然仕事のうちのこと。
そもそも彼の体調不良のことは、既にマネージャーさんも把握しているそうだし、
彼女の方が色々と段取りは良いはずで、なんなら彼はもう薬まで飲んでいる。
…俺は何に苛立っているんだろう。すごくいらいらする。
なにも間違っていることも、理不尽なこともないのに。
俺がなにも言えないでいると、彼はふいと足を喫煙所へ向けた。
「心配かけてごめんね。…今日は、すぐ家帰るから。」
じゃあね、お疲れさま。と彼が立ち去っても、まだ俺は何も言えなかった。
心底苛立っている自分に、そしてようやっと見つけたその原因のくだらなさに、
はたはた呆れてしまったからだ。
自己嫌悪にはまりながら戻っている途中で、宮永さん、と高い声に呼ばれた。
――あぁもう、なんだっていうんだ。
その声に憂鬱な要素がプラスされつつも、俺はおくびにも出さずに振り返る。
まさに今(勝手に)苛立っていた――北くんのマネージャーさんの、津久井さん。
ジーンズにタンクトップ、彼女のとても快活そうなスタイルはいつも通り。
「…お疲れさまです。」
「お疲れさま。ごめんなさい、今ちょっと時間いいですか?」
今日の仕事は終了していたので頷くと、5分で終わらせると彼女は言った。
(こちらはそんなに急いでいなかったが)彼女のこういう物言いはとてもやりやすい。
ひとの目が気になったらしく、彼女と場所を移動しながらも、
俺はどこか鬱々とした気分でその後ろ姿を眺めていた。
自分より頭一つ小さな身長、重たそうな鞄を肩に食い込ませながら、
肩上で短く切りそろえてある髪が歩く度に揺れる。
とても優秀な人だと思う。マネージャーとしてだけではなく、多分、女性としても。
(……ばかみたい。)
自分の思考回路にふつふつと嫌気が差してきたころ、ふっと周りの騒音が遠くなった。
気付けば俺は、あまり来たことのない通路の角に立っていた。
どうやら大分うわの空で歩いていたようだ。
…彼女の用件とはなんだろう。見当もつかない。
「できたら今日、あいつの部屋に寄ってほしくって。」
「え?」
ほんとに申し訳ない!と彼女はまっすぐ頭を下げた。
とっさに俺は、どうリアクションすればいいのか分からなかった。
二人きりなので口調はフランクだけど(そもそも彼女の方が年上なんだし)、
どうやら真面目な話のようだ――かといって仕事の話とも少し違うが。
恐るおそる確認してみる。
「ええっと、あいつって…?」
「北だよ。あいつ今、どっかから風邪もらっちゃったみたいでさ。」
「ああ、そうみたいですね…。」
「だからその、ちょっと部屋に顔出してもらえたらなーって…。」
やはりあれは風邪の影響だったらしい、俺は昼間の彼の様子を思い出す。
すると言っているうちに余計申し訳なくなったのか、再度彼女は頭を下げた。
「勝手なこと言って、ごめんなさい。」
彼女は、俺と北くんの関係を知る数少ない人だったから、
他のメンバーではなく俺に声を掛けたのはわかる。
わかるけれど、…俺は易々と返事をできなかった。
「…でもそういうのって、津久井さんの方がいいんじゃないかな。」
俺なんかより、ずっとさ。
***
ふうっと意識が浮かんだ。
暗い、オレンジ色の光だけがぼんやりと部屋を照らしている。
(あつい、)
寝返りをうとうとした途端、頭の奥がごうんごうんと呻きだした。痛い。
(…かぜ、だな。かんぜんに。)
ちくしょうどこから拾ってきた、とぼんやり回らない頭で考える。
けれど熱に浮かされたそれで答えが出るはずもなく、考えることを早々に放棄した。
(……そういえ、ば、)
俺は出来るだけ遠くに目をこらして(なるだけ頭を動かしたくない)、そっと耳をすませた。
目が覚めたとき、人の気配がしたような気がしたからだ。
けれどそこにあるのは、見慣れた自分の部屋と、無機質な空調の音だけ。
……気のせいか、とすぐに意識を投げ出した。
頭で物を考えたくなかったのだ。
(…今。なんじ、だろ。)
ああだめだ、考えたく、ないのに。ばか。
左手をほんの少し動かしただけで、こつん、と探りあててしまった。携帯電話。
機能に機能を重ねた現代の必需品。それが嫌いで仕方無いのに。
(やだ。…気に、したくない。)
気にしない気にしない、かんがえない、そうだ忘れよう、寝てしまおう。
そうやって必死に心の中で唱えていたから、部屋のドアの向こうから、
…ぱたん、ぱたん、
と足音が聞こえたのには本当に吃驚した。
やがて足音は近づいて、誰かが静かにドアを開いた。
「…あ、目さめちゃった?遅くなってごめんね、」
「っげほ、ごほッ…、はぁ、」
「無理して声出さないで。大丈夫?」
彼の名前を呼ぼうとしたのに、喉からは耳障りな咳しか出てこなかった。
別に無理なんかしてなかったんだけどな。急に気管が苦しくなって、思わず身体を丸める。
カッコ悪い、まるで芝居みたいにわざとらしいのに、
布団越しに感じた手のひらに、何かがほろりと外れてしまいそうだ。
--------------受信トレイ(1/1500)--------------------
20xx/08/03 22:12
from.ジンくん
sub:今日の夜、部屋行きます。
多分23:30ごろになると思う。
迷惑だったらごめん。
体調悪いんだから、先に寝ててください。
-END-
-----------------------------------------------------------
(ほんと、に)
(来てくれたんだ。)
「北くん、エアコン下げ過ぎだよ。温度上げといたからね。
あとそこにあった、今日着てた服かけといたよ。シャツは洗濯だけど。」
ふぅふぅと呼吸を整えながら、彼の小言(といったら怒られそうだ)を聞いていた。
聞き慣れた声は耳からするりとしみ込んでいく。
「水、ここに置いとくね。暑いんじゃない?
保冷剤持ってきたから、首にあてるといいよ。」
言われるがまま、ほんの少し頭を上げると、首もとにタオルを当てられた。
ひんやりとした程よい冷たさが気持ちいい。
だるさとか熱っぽさとか疲れとか、そういう嫌なものがゆっくりと吐き出されていく。
(あー、なんか…)
ゆるゆると腕を持ち上げて、顔を覆い隠す。
触れた頬が熱いような気もするけど、手のひらの方が熱いからよくわからない。
彼が不思議そうに俺を見ている。
「どうしたの、気分よくない?」
「ううん。」
「…ごめん、やっぱお節介だっ」
「ちがいます。そんなことない…。」
なんでそういうこと言うかな嬉しいに決まってんじゃん、なんて言う気力が今は無い。
無いけれど、でもどうやら彼は俺の言葉を待っているらしかった。
熱で浮かれた頭の中、思考と言葉はバラバラのジグソーパズルみたいにごちゃ混ぜだ。
誰もピースをはめてくれやしないし、組み立てるのがめんどくさい。
もういいや。
「…世話かけて、ごめん。」
「気にしないでいいよ。」
「久しぶりなのに。」
「…そう、だね。」
「…………。あー、もう…やだ…。」
「北くん?」
じわり、じわりと胸の奥がむずがゆい。
頭痛のように不快なものではないが、それでも無視できないくらいの気持ち。
(うれしい、から、)
今すげー顔ゆるんでてだらしないから見ないでください、
って言う前に顔を覗き込まれてしまったのは、不覚だったかもしれない。
けど、指の間から見た彼の顔もふにゃりと笑っていたものだから、どうでもよくなった。
…今みたいなのは結構めずらしい。
「はぁー…。さっさとなおそ…。」
「そうしてください。」
布団を被り直しながら壁側に寝返りをうった。
ぐるりと頭を動かしたものの、頭の奥は随分と静かにしている。
この分だときっと、明日の仕事も問題ないだろう。
(くそ、キスしたかった…。)
おやすみ、と彼の声が聞こえた。
今夜はよく眠れそうだ。
***
『津久井さんの方がいいんじゃないかな。』
『そんなことないよ。』
彼女の否定は、早かった。
『マネージャーと恋人は違うでしょ?』
何を今更、とでも言う風に彼女は言った。
それでも俺は納得いかない顔をしていたんだろう、彼女はさらに続ける。
『少なくとも北は一緒にしてないし…。
っていうか、早いとこ風邪が治ればなんでもいいんだけどね。』
最後に彼女は、困ったように首を傾げながら話を終えた。
『あいつ、結構甘えたじゃない?普段カッコ付けだけどさ。』
彼女が俺に割いた時間は、本当に5分間だけだった。
それはとても些細なことばかりだった。
たとえば、なんでもない言葉。
『…今日は、すぐ家帰るから。』
(別に、知らせる必要なんてないのに。)
たとえば、付けっ放しだったサイドライト。
(いつも彼は、部屋を真っ暗にして眠るのに。)
たとえば、眠っている顔の目と鼻の先に転がっていた携帯電話。
(見るのも嫌だと、あれだけ毛嫌いしているものなのに。)
もしかしたら勘違いかもしれない、思い込みでしかないかもしれない。
でもそれは少しずつ確実に、胸の中をあたたかくしてくれて、
無意識に口角が上がってしまう。
明日の朝食の準備を終えて、さて自分も寝るかと思ったときに、
ふと携帯電話がちかちか光っているのに気がついた。
(なんだろ、津久井さんかな。)
--------------受信トレイ(1/2987)--------------------
20xx/08/03 22:18
from.北 理人
sub:Re:今日の夜、部屋行きます。
今部屋ついたよ。
待ってる。
-END-
--------------------------------------------------------------
「うそっ…?!」
思わず携帯を落としそうになるくらい動揺してしまう。
まるで熱をうつされたように、顔が熱くてあつくて仕方が無かった。
(だってこんな、そもそも返信なんて滅多にないのに…っ、)
薄暗い台所で、しばらく立ち上がれなかったことを、
彼は知る由もないんだろう。
おしまい!
----
・朝食の用意=お手製お粥 ←妄想本命だったところ
・ほんとはジン君が「ソファ借りるね」「えっなんで」「寝るから」
「ばかじゃないのそれこそ風邪ひくわ」っていうやり取りの元
きたと一緒のベッドで寝るっていうくだりがあった
・どうでもいいけど多分きたの風邪の原因は冷房の当たり過ぎ
ちょっと北マネの設定ができつつあるのでよかったー。
ちなみに名前は津久井智子(漢字は今決めた
PR
この記事にコメントする
カレンダー
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
カテゴリー
フリーエリア
最新記事
(02/26)
(05/19)
(05/19)
(10/07)
(10/01)
(09/26)
(09/09)
ブログ内検索
最古記事
(12/17)
(12/17)
(12/17)
(12/18)
(12/20)
(12/20)
(12/21)